園芸植物における日本国内でのウイロイドの発生分布と変異体の感染性
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概要
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Chrysanthemum stunt viroid(CSVd)は,キクに感染するとわい化症状や発根不良を引き起こすウイロイドである。1972年に国内での発生が報告されて以来,全国各地のキク産地で問題となっている。しかし,その発生分布や発生しているCSVdの系統について調査した報告はない。そこで,全国各地のキク産地におけるCSVdの感染状況を調査し,さらにその変異体の分布を明らかにした。国内の10県で採集した栽培ギク(Chrysanthemum morifolium Ramat。)89サンプルおよび花き研究所で保存されている野生ギクからキクわい化ウイロイド(CSVd)を検出し,21単離株の全塩基配列を決定した。栽培ギク89サンプル中80サンプルがCSVdに感染しており,うち36サンプルはRT-PCRで検出されるレベルの高濃度感染であり,44サンプルはnested PCRで検出される低濃度感染であった。採集したすべての県でCSVdが検出され,日本国内のキク栽培地域で感染が拡大している可能性が示された。8種の野生ギクからはいずれもCSVdがRT-PCRで検出され,病徴は認められなかったが,これらがCSVdの宿主となることが初めて示された。また,塩基配列が異なる5種のCSVd変異体を認め,既報の系統とは塩基配列の異なる系統として,栽培ギクからは変異体5が,ナカガワノギクからは変異体4が検出された。変異体1(DDBJ accession No。X16408)は最も高頻度に検出され,10県中6県で検出されたことから,日本で優占的に分布するCSVd系統と推定した。トマトにはCSVdを含め,ポスピウイロイド属の8種類のウイロイドが感染することが知られているが,これまで,日本国内でトマトにおいてウイロイド病害が問題になることはなかった。しかし,2006年,広島県の温室栽培のトマトにおいて葉の退緑や茎頂部の萎縮などの症状を示すトマトが発見された。そこで,その病原体の同定と特性の調査を行った。広島県で発生したトマトからRNAを抽出し,電気泳動によって得られた健全トマトにはないRNAのバンドを回収して,健全トマトに接種したところ,約1か月後には同様の病徴が確認できた。次に,接種トマトから全RNAを抽出し,ポスピウイロイド属のウイロイドを検出できるプライマーセットを用いてRT-PCRを行い,その全長塩基配列を解析した結果,全塩基配列は359塩基であり,カナダで発生したTomato chlorotic dwarf viroid(TCDVd)の系統と98%の相同性があった。TCDVdの詳細な宿主範囲や特性について調査を行った。その結果,TCDVdの宿主植物はナス科が主体で,その他一部のキク科,クマツヅラ科,キョウチクトウ科に限定された。ナス科植物で病徴を発現するのはトマトおよびNicotiana glutinosa L。のみで,ペチュニア,ピーマン,ナス等多くの植物では,感染しても無病徴であった。過去に輸入ペチュニアからもTCDVdが検出されており,無病徴の栄養繁殖の花き類を通じて各地に伝播している可能性が推察された。さらに,TCDVdの物理的特性を次のように明らかにした。TCDVd磨砕液は100℃で10~30分煮沸処理しても感染性を示し,高い耐熱性を有していた。また,106倍希釈でも感染力を示し,低いウイロイド濃度でも感染力を保持することができた。耐保存性は,リン酸緩衝液磨砕粗汁液中で1~2日程度であるが,乾燥状態では50日以上と耐乾燥性は強い結果となった。CSVdは上記の試験において,5種類以上の変異体が国内に分布していることが示された。また,データベースには30種類の変異体が登録されている。これらの変異体は園芸植物種や品種の間の移動などによって発生した可能性がある。特定の配列のCSVdを単離して接種試験を行うためには人工合成系が必要であることからその系の構築を試みた。国内で最も広く感染しているCSVdの系統(変異体1;No。X16408)に感染したキクから全RNAを抽出し,RT-PCRによってCSVdのcDNAを得た。次に,CSVd cDNAの5'末端にT7プロモーター配列を直結するようにDNA断片を作製し,それを鋳型にしてRNAを転写した。転写した直鎖状のCSVd RNAをイソギクに機械的に接種すると,感染植物から抽出・精製した天然のCSVdと同様に,CSVdの感染が確認できた。一方,鋳型として用いたcDNAやその配列をもつプラスミド,マイナス鎖のCSVd RNAには感染性は認められなかった。合成CSVd(+)RNAをその他の宿主植物に接種すると,イソギク,トマト,アゲラタムからは4週間後に,シュンギクからは8週間後にCSVdが検出され,CSVd RNAに対する感受性は宿主植物によって異なると考えられた。さらに合成CSVd RNAを接種したトマトおよびアゲラタムから抽出した全RNAを健全トマトや健全イソギクに接種したところ,CSVdの感染が確認できた。これより,合成CSVd RNAより生じたCSVdは他の植物への感染性を保持していることが示された。また,CSVdの他の宿主園芸植物への感染の可能性が示された。以上のことから,本方法によって合成された単分子CSVd RNAはCSVd宿主植物に感染し,複製能を持ち,接種試験に利用できることを示した。この系を利用してCSVdの変異体を生じさせる実験を行った。CSVd RNAを接種してCSVdに感染した各宿主植物から全RNAを抽出し,RT-PCRによってCSVdのcDNAを得て,その全塩基配列を解析した。その結果,アゲラタムとシュンギクからは鋳型のCSVd(No。X16408)と配列が完全に一致したクローンが8個得られたが,一方,トマトとイソギクからは鋳型の配列と異なるクローンが得られ,これらの宿主植物体を経ると変異体が生ずる可能性が示された。次に,CSVd(X16408)を接種したトマトを作製し,それを台木にしてペチュニアに接木接種を行った。接種3か月後に穂木のペチュニアを分離し,挿し木を行って1年間栽培した。その株からRT-PCRによってCSVdのcDNAを得て全塩基配列を確認したところ,130番目の塩基にGが挿入されたCSVd(CSVd-Pet)が得られた。同様の方法でCSVd-PetのRNAを作製し,ペチュニアに再接種したところ,感染が確認された。過去報告されているペチュニアから分離されたCSVdの配列は,CSVd-Petと同様に130番目と131番目にGの配列が挿入されている。さらに,同様の試験をジャガイモにおいて行ったところ,47番目のUがAに,49番目のGがAに塩基置換されていた。以上より,キクに感染しているCSVdが他の宿主植物に定着すると,その宿主に適応した変異体に移行していく可能性が示唆された。
- 2011-12-00
著者
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