天蚕の屋内飼育
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概要
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天蚕の生理・生態的特性および飼料樹の葉質などの基礎的な究明,ならびに効率的な屋内飼育法の組立てとその実証などを行い,次の結果を得た。1.天蚕飼料樹のクヌギとコナラは,葉齢の進行に伴い,水分率や窒素含量等が減少する反面で粗繊維が増大し,比較的短時間のうちに飼料価値を低下させた。稚蚕期用としての飼料価値はコナラもクヌギに劣らなかったが,壮蚕期用としてはクヌギがかなり優れ,とくに栽培樹が自生樹より勝った。2.天蚕幼虫1頭が全齢期間に食下する葉量(乾物重)は,クヌギ栽培樹が19.5g,クヌギ自生樹が22.7g,コナラ自生樹が21.6g程度であった。消化率は1齢期が最も高く,クヌギ栽培樹の場合で51%程度であったが,齢の進行に伴って漸減し,5齢期には35%程度であった。窒素消化率は各齢とも50~60%程度であり,平均相対成長率(g/g/日)は1~3齢期0.44~0.65,4齢期0.35,5齢期0.18程度であった。3.掃立は,飼料樹の開葉をまって,早期にするほど蚕作が良好であった。4.飼育適温は,1~3齢期29℃程度,4~5齢期25℃程度であり,飼育中に好ましい気流は,壮蚕期の場合0.1~0.25m/sec程度であった。5.幼虫の体水分率は,孵化直後に77%程度で,食葉とともに急増して1齢末期に86%程度となり,以後4齢期まで88~90%程度の高水準を維持するが,5齢初期以降に漸減して末期には76%程度となった。幼虫は水を飲み,壮蚕期の飼料葉に散水して給与することは成育や繭質の向上に効果的であった。6.幼虫の成育や繭質の向上に好ましい飼育場所の光条件は,明10~12時間,暗12~14時間の周期であり,蛹期間の短縮に効果的な光条件は,明8~12時間,暗12~16時間の周期であった。7.天蚕繭の色は,吐糸開始後1日間における光の強さによって影響され,人工光50lx以下で黄色,15,000lx程度で黄緑色,屋外自然光のもとで濃緑色となった。8.天蚕の孵化幼虫は,柞蚕に比べて体水分率が少なく,絶食生存期間も短かった。絶食孵化幼虫は,明条件,常温下でとくに活発に歩きまわり疲労したが,暗,低温,多湿条件下に保護すると障害が少なかった。9.壮蚕養飼育容器の中断に網蚕座を設けて飼育する方法を考案した。この方法によると幼虫はその習性通りに網の下側にぶらさがりながら食葉でき,糞や病蚕等から隔離されて衛生的であり,飼育密度も高められ,給餌や除沙等の作業も容易に行えた。10.天蚕の屋外飼育法を体系化し,その実証試験を行い,蚕作安定と良繭多収がはかられ,効率的に飼育できることを確かめた。11.天蚕の飼育技術確立のうえで残された問題点を指摘し,その解決策等について考察を加えた。
- 農林省蠶絲試驗場の論文
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