イトマキヒトデ地域集団の遺伝的分化
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概要
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海産無脊椎動物の地域集団間の遺伝的分化に関しては不明な点が多い。このような集団遺伝学的研究は海産無脊椎動物における種分化のメカニズムの解明に重要な意味を持つ。本研究では、日本近海の普通種である棘皮動物イトマキヒトデ(Asterina pectinifera)の5地域集団の遺伝的分化をアロザイム分析により調査した。分析した集団は、北海道・江差、青森県・深浦、山形県・温海、陸奥湾・浅虫、下北半島・下風呂の5地域集団である。12酵素のアロザイム分析により、23酵素遺伝子座が検出され、各遺伝子座における対立遺伝子頻度より集団間の遺伝距離を算出し、5地域集団の遺伝的分化および遺伝的関係を示す分子系統樹を作成した。その結果、5地域集団は大きく2つのグループに分かれた。1つは陸奥湾と津軽海峡の2集団(浅虫、下風呂)、他は日本海の3集団(江差、深浦、温海)からなる2つの大きなグループである。また、いくつかの遺伝子座における対立遺伝子頻度の統計学的有意差が2つのグループ間で観察されたことから、津軽半島・下北半島・渡島半島の地理的障壁により、日本海集団と陸奥湾・津軽海峡集団間で、かなりgene-flow(遺伝子拡散)が制限されている可能性が示唆された。本研究より、日本近海で広い分布域を有するイトマキヒトデは、地域集団間で確実に遺伝的組成の違いが蓄積されつつあることが判明した。今後、本研究は海産無脊椎動物、特に棘皮動物の種分化の解明に基礎的で有益なデータを提供することが期待される。
- 2009-12-00