ペスト流行期の慈悲 : <慈悲の聖母>のイコノロジー
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概要
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本論文は,《慈悲の聖母》図像の表現にペストが与えた影響を明らかにすることを目的とする.この図像は,ひざまずく信徒たちをマントで覆うマリアを表わしたもので,13世末から16世紀半ばにかけてイタリア,フランス,ドイツ,ネーデルラントなどで広まった.第一章では,この図像が『詩篇』に登場する「翼をもつ神」のイメージを踏まえたもので,理想的な共同体としての教会を象徴している点を示した.第二章では,この図像がペストから人びとを守護するとみなされた背景に,マリアが神やキリストへ人びとを執りなす仲裁者として信仰された点を指摘した.第三章では,1347年以降に制作された作品のなかでも,マントの外側でペストの矢を受けて倒れている人びとがいるものを取り上げ,慈悲による救済が選択的に表されている点に着目した.ペスト流行期の《慈悲の聖母》図像には,慈悲が信仰を対価に取引されるさまが表されているのである.
- 2011-12-20
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