反復/再演する図像 : 聖史劇研究の成果をふまえて
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概要
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本論は,十五世紀フィレンツェで上演された聖史劇を手がかりに,同時代の図像に「何が起きているのか」を検証するものである. シャピローやパクサンダールが指摘したように,演劇lから図像へという一方通行の即応関係を「実証的」に明らかにすることは困難であるしかし,図像の「源泉」や「典拠」への拘泥を留保し,再構成が進められてきた聖史劇についての研究成果をふまえるならば,演劇と図像のあいだに存在した「反復」や「再演」といった,双方向の照応関係を発見することが可能となる.まず,絵画的リアリティに埋没しない演劇的リアリティを帯びた図像中の記号に注目する.実際の聖史劇の舞台に用いられた記号群が描きこまれることで,図像中に異質なふたつのリアリティが並ひ、立つ.このリアリティの落差が呼び起こした聖史劇の見物客の眼差しは,図像の鑑賞者の眼差しへと重ねられたのだ.次に,図像のなかに描かれた超常的な光, もしくは点光源の描写に注目する.聖史劇『昇天』や『受胎告知』などの演目におけるイルミネーションの演出は苛烈を極めた.図像資料に確認される,天井に鎮座する神の周囲の光,天球の表現などは,まさしくこれらのランプや花火の効果の「反復」と考えられ,鑑賞者と見物客の経験が接近し得たことを示す.さらに,図像を構成する時空を,聖史劇の舞台が組織した時空と比較検証する.聖史劇の時間は,遅延し,停滞し, 回帰する特徴を帯び,演技空間は収縮と拡張を繰り返す.また,聖史劇の見物客は,このような時空に,身体ごと参与するよう要請された.そのために,同じような前近代的な特徴を帯びた図像の前に立っとき,見物客でもあった鑑賞者の受容は, 重層的なものとなったに相違ないのだ.
- 2010-12-20
著者
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