ミドルトン劇における契約・誓約・ロアリング
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概要
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ことばへの不信感をことばで表現することの不条理を語るシェイクスピア劇の登場人物たちが観客と共有しているのは、言語の指示対象の確かさへの不安・不審を、ほかならぬその不確かな言夢で表現するはかない閉塞感と同時に、そうした表現が可能であることの奇妙な充足感である。シェイクスピアが仄めかしたこの言語の信憑性のゆらぎの主題は、いくつかの同時代の芝居にも、明示的に、あるいは暗示的に問題化されている。たとえば誰かが「自分は嘘つきだ」と宣誓するときその宣言の信憑性についての判断は不可能であるが、そのような自己言及的な言語の使用を通じて、芝居は大胆にも、みずからの虚構性を臆面もなくさらすことになり、返す刀で現実世界の-すなわち資本主義社会における交渉が内包する虚構性・ゲーム性や、封建制下での価値としての「名誉」などの抽象概念にまつわる空疎さなどを暴こうとしているのだ。言語はいかにして「富」を移動させうるのか、あるいは抽象概念を実体化/解体できるのか。さらにまた、契約はどこまで人間を拘束しうるのか、あるいはひとはいかにして、言葉による束縛・制限から自由たりうるのか「本稿では17世紀初頭のいくつかの演劇作品を横断的に俯瞰しつつ、具体的・世俗的価値への還元という手段によって、美徳にまつわる抽象概念の具象化がどのように変容するのかについて、舞台上で交わされる契約や誓約のエピソードを手がかりとして考察したい。
- 2009-03-23
著者
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