誤りの分析における「訓練の転移」再考
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概要
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Selinker(1972)が「訓練の転移(transfer-of-training)」を提案してから約40年が過ぎた。訓練の転移とは,教授者の誤った説明,教科書をはじめとする教材や提示上の不備,文脈を無視した操作ドリルなどによって誘発された学習者の誤り(induced error)をさす。松林(2008)は,現在の中等教育で行われる語彙・文法指導の一部が,今なおこの誘発された誤りの原因になる可能性を示唆した。本論では,この可能性を確認するために,大学生を対象としたアンケートを実施し,中学校で学習済みの語彙・文法項目に関して,実際にどの程度誘発された誤りが現れるかを調べた。結果は,極めて基本的な項目に関しても誘発された誤りが多く確認できた。訓練の転移が提案されて以降,今なおこの種の転移が確認されるということは,指導法や教材の提示などに不備があるにもかかわらず,十分な改善がなされないまま今日に至っている証であると言わざるを得ない。訓練の転移は,母語の干渉(L1 interference)や過剰般化(overgeneralization)といった誤りとは違い,学習者の外的な要因によって誘引される誤りである。この点を考えれば,尚更,教授者側から語彙や文法指導の在り方を再考し,訓練の転移を避ける試みが学習者への責任として求められるのではないだろうか。このような問題点を解決する糸口をつかむかめに,本論では,まず,1960年代後半から70年代にかけて精力的に行われた「誤りの分析(error analysis)」を簡単に整理しながら,第2言語習得研究における「訓練の転移」の位置づけを再確認する。次いで,大学生を対象としたアンケートを紹介しながら,訓練の転移が中学校で学習した基礎的な語彙・文法項目において実際にどの程度現れるのか具体的に示す。最後に,田中他(2006)や大西&マクベイ(2006)に基づいて,コアやイメージを利用した語彙・文法指導を紹介しながら,「訓練の転移」を誘発しない指導法の在り方について考えてみたい。
- 岩手大学人文社会科学部の論文
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