マーケティングにおける自生的秩序の探求に向けて
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概要
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樫原正勝教授退官記念号論文本論文は,異質な需要と異質な供給の斉合過程である「マーケティングプロセス」における自生的秩序形成の論理を方法論的個人主義の立場から解明しようとするものである。まず単純化のために合理性仮定を採用することの是非について吟味し,結論として次のような人間像を仮定した。すなわち,未来に対して行為の合理化を行うと同時に過去に対しても行為の合理化を行い,誤り排除により自らの行為の首尾一貫性を保持しようとする「合理的人間像」がそれである。その上で,多様な目的を持つマーケティング参加者が遂行する合理的行為を秩序化へ向かわせる駆動力となるのは,マーケティング,もしくは消費のいずれであるのか,という問題について検討を加えた。そこでは,マーケティングを秩序形成の駆動力としてとらえる論理の成立困難性が指摘され,消費者が行う合理的問題解決こそが,マーケティングプロセスにおける秩序形成の駆動力である,とする立場が採用された。これらの基礎的分析に基づき,論文の最終段階では,行為者の有する「知識」に着目する観点から,マーケティングプロセスにおける行為の自生的秩序形成の論理を試行的に導出する作業を行い,次の暫定的結論に到達した。すなわち,マーケティングは《コミュニケーション》というよりはむしろ,《シンクロナイゼーション》のプロセスである,という主張がそれである。消費者とマーケティング行為者の両者が相手の行為に対して抱いた期待が,規則的パタンの認識に基づく行為予測の側面で,相互に矛盾しない状況になれば,この期待を含む仮説に従ってなされた両者の合理的行為の作動は互いに同調することになる。すなわち行為の《シンクロナイゼーション》が達成されるのである。