『奥州後三年記』について
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概要
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『奥州後三年記』(以下『後三年記』と略称)は十一世紀後期に奥羽北部で起こったいわゆる後三年合戦(一〇八三−八七)の顛末を記した書であるが、同合戦と対をなす前九年合戦(一〇五一−六二)の顛末記である『陸奥話記』(以下『話記』と略称)とは体裁や記述スタイルなど多くの点で様相を異にする。すなわち『話記』が漢文体の硬質な文章で書かれ、しかも叙述中に公文書が多用されているのに対して、『後三年記』の方はわりあい素朴な和漢混淆文で書かれ、筋立てや場面の展開にも多分に物語的要素が色濃い。本書のそうした特徴は周知のように、本来『後三年合戦絵詞』の詞書として伝存したものであることに起因している。きわめて荒く概念的にいうならば、『後三年記』とは『後三年合戦絵詞』の詞書に対する一般的呼称であるということになる。したがって、『後三年記』の諸本には大きく分けて絵巻の模写本と、詞書のみを書写したものとの二種がある。