ヴェブレン『営利企業の理論』における「企業」と「企業者の観点」
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿の目的は,ソースタイン・ヴェブレンが『営利企業の理論』[Veblen, 1904]1)で展開した「企業」概念の検討を通じて,現代の思考習慣=制度が企業的状況のもとでの淘汰的適応の過程にあること,および営利企業が生み出す現代的状況を分析するために進化経済理論の「観点」が二重化すること,この二点を示すことである2)。『有閑階級の理論』に続く進化経済理論の展開として,ヴェブレンは,現代文明にもっとも包括的な影響力をもつ営利企業体制についての理論化へと向かった。この研究も,前作同様に進化的方法にもとづくこと,すなわち「経済科学の目的にとって,説明されるべき累積的変化の過程とは,物事をおこなう方法―つまり生活の物質的手段を扱う方法―の変化の継起である」[Veblen(1898), 1919, pp. 70-71]という立場に変わりはない3)。ヴェブレン進化経済理論の一般的特徴は,「制度」・「プロセス」・「累積的因果性」を鍵概念とする「制度進化の理論」を展開したことである4)。しかしながら,『営利企業の理論』が,特殊歴史的な信用経済段階の「企業的状況5)」[TBE, p. xix]とその経済生活のスキームに分析の焦点をおいていることは,この「制度の発生論的研究」[Veblen, 1914, p. 2]に特殊現代的な性格を与えている。それは,ヴェブレンが「企業者の観点6)」を分析の出発点に置くと繰り返し述べたことに関連している。この著作では,特殊歴史的=現代的な営利企業の理論のために選択された企業者の観点が,機械過程の時代の,ポスト・ダーウィニアンの進化的科学の観点7)という一般的前提に付加されるかたちで,理論構成上特殊な位置を占めている。なぜ,「物質科学の機械論的仮定」[Veblen, 1914, p.xi]という進化経済学の一般的,基底的「観点」だけでなく,企業界の論理を追跡するためには,加えて,「企業者の観点」が必要となるのであろうか。このような問題設定から『営利企業の理論』の分析視角がこれまで論じられることはなかった。本稿では理論展開における観点の「複相化」の理由を検討しながら,ヴェブレンの「企業」概念がいかなる意味で信用経済段階の経済分析に必要となるのかを論じることになる。
著者
関連論文
- ヴェブレン『営利企業の理論』における「企業」と「企業者の観点」
- 制度の発生論的研究とヴェブレン「人間本性」の理論
- ヴェブレン進化経済理論の構成と「観点」
- 進化的秩序の理論と企業の理論 : ヴェブレンとハイエク
- 進化経済学と秩序の理論 : 自生的秩序と階層的秩序