防犯の視点からの地域再生 : ソーシャル・キャピタルの構築と活用を念頭に
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概要
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かつて「安全と水はただ」と謳われた日本は、近年、水はさておき、安全面では、決してそれを謳える国であるとはいえない状況にあり、その改善には地域社会の再生が必要との論も多い。本稿では、昨今の欧米で地域社会再生の鍵として、住民の地域への誇りや愛着、他者への愛、憐憫などの心根、個々の持つ知識や技能を「ソーシャル・キャピタル(人間関係資本)」と定義し、その発掘とネット化による活用が図られ、防犯を含めた地域再生に寄与している事実に着目し、その日本型の構築指針を探るべく、東京都、北九州市、岡山市、新潟市において、住民意識にかかるアンケート調査を行った。アンケート項目は40、5段階評価とし、結果に対しては因子分析を行った。配布総数は850で、東京でのみ、一般に加えて幼稚園保護者を対象とした。項目詳細、地域別配布数および回答数などは本論を参照されたい。アンケート調査を行うに際しての仮説は、「ソーシャル・キャピタルはその発掘とそのネット化による活用」による地域再生はわが国においても必須で、その前提になる地域住民の意識は欧米同様、人と人との繋がりおよび地域社会での安全・安寧への欲求」にあるとした。アンケート調査の結果は、仮説が肯定されたと言ってよい。爾来、地域の安全を損なうものとされたものは、社会秩序やモラルの崩壊、急速なIT社会到来の悪影響、不法入国外国人の増加、家庭崩壊、物欲の拡大、さらには、派出所での警官不在、酒・タバコ自販機、ゲームセンターの存在など、社会・経済的、制度的要因が多いが、本調査によれば、人々に助けあいや、思いやりの気持ちが無い、相談できる人や場所が無い、住民連携の機会が無いなどの人にかかる懸念が多少の地域差はあるものの、改善を要する項目として、最も強く現れ、次いで、高層住宅の増加や酒・タバコ自販機の設置などによる街区や街路環境の悪化などが改善事項として挙げられた。中でも、興味を引いたものに、世話役の不在や神社、寺院など地域核の不在に対する懸念がある。前者については、東京の幼稚園保護者および一般に共通しており、後者については、幼稚園保護者、北九州市、岡山市での調査結果にも示されている。本論では、これらの結果を念頭に、わが国における「ソーシャル・キャピタル」構築に資する行動項目として、ハーバード大学ケネディスクール内のソーシャル・キャピタル研究組織「サワラ・セミナー(Saguaro Seminar)」により、提起された企業・市民の取り組むべき150項目の中から、わが国地域社会でも、容易に取り組めると思われる40項目を採り上げた。しかしながら、わが国における「ソーシャル・キャピタル」研究は緒に就いたばかりであり、その地域再生への活用へは途遠いが、住民の安全・安寧のための地域再生は急務である。