高齢者の移動に関する理論的な見方
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概要
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本論文は,高齢者の移動を理解する四つの理論的な見方を現実のデータにより,検討しようとするものである。第一は,定年退職後の発展の見方(post-retirement developmental perspective)である。この見方によれば,高齢者達が自活能力の変化に伴う三段階で移動する可能性が高いと思われる:良い居住環境への移動,家族や友人の定住地への移動,施設に入居する移動。第二は,長い生涯の見方(life-course perspective)であり,若い頃に生計を立てるために経済機会の良い地域へ移動した高齢者が郷里へ移動する強い傾向が予想される。第三は,世代関係の見方(intergenerational perspective)であり,高齢者が成人子供の定住地に強く吸引されることが考えられる。第四は,経済的な見方(economic perspective)である。この見方によれば,高齢者が生活費の低いところへ移動しやすい一方,経済力の弱い地方が裕福な高齢者の流入を促すことは予想できる。これら四つの理論的な見方が高齢者の移動パターンと選択性を説明する能力は,社会経済の背景によって,異なるのである。第一の見方がアメリカの白人の主な州間移動パターンをよく説明できるが,そこの黒人やカナダの高齢者の州間移動に対して,第二の見方の説明力が強い。第三の見方に従う移動研究によって,個人主義が最も進んできたと思われるアメリカでさえ,成人子供の定住地が高齢父母を強く吸引していることは明らかになった。つまり,世代間の繋がりが弱くなっていなくて,成人子供が高齢父母と助け合っていけるという明るい見通しが示唆された。第四の見方は,フロリダとカリフォニアの両州での高齢者移動パターンの大きな違いを説明できる一方,良い居住環境に恵まれた経済力の弱い地域が高齢者移動の強い選択性により,裕福な高齢者を多く吸引する画策の作り方に有効な思案を提供できるのである。高齢化が深刻になっていく21世紀を考えながら,著者が強調したいのは世代関係の見方である。この見方から獲得した研究成果は,核家族化が必ず成人子供と高齢父母との繋がりを弱くしていく考えを否定したものである。日本のような核家族化した社会に,同居していなくても,成人子供は身体が不自由になった高齢父母の暮らしに重要な役割を果たしつづけるはずであろう。
- 日本人口学会の論文
- 2002-05-31