地域の経済的変化と女性の労働移動 : 近世後期東北の在郷町を中心として
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概要
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本論文では,近世後期に地方の町を中心とした地域(現在の福島県郡山市)で,女性が行った労働移動の実態を,地域経済の変化への対応も含めて把握する。対象とする地域では,製糸業の発展に伴い,農村においても自宅・あるいは自宅から通いで従事できる賃労働が増加した。そして,特に既婚女性が家計を補助したり自ら支えたりする場合には,かつて行っていた地域の中心となる町で行う世帯を離れた労働よりも,世帯にとどまって働くほうを選好するようになった。この状況を,安積郡郡山上町への周辺農村地域からの女性奉公人を第一期(1729-99年)と第二期(1800-70年)とに分けて確認する。また,周辺農村からの有配偶女性の単身での出稼ぎ労働が減少した町では,労働者を遠方からの家族単位での引越流入者で代替した。彼らは,町における人口の再生産活動にも寄与し,町での現住者の人ロピラミッドを生産年齢人口の突出した形態から,裾広がりの富士山型へと変化させた。さらに,村や町での賃仕事の増加に関する人口学的含意として,有配偶率低下の一因となった可能性も考えられる。そこには,再婚市場への参入の遅れも考えられる。しかし,それは同時に町への労働供給を行っていた農村出身既婚女性の村落においては,夫婦がともに暮らす時間を増加させ,出生率の上昇をもたらした可能性がある。以上を,歴史人口学および「ジェンダー」(社会的性差)の観点を用いて明らかにするのが本稿の目的である。
- 日本人口学会の論文
- 2003-11-30