「地方行政における費用対効果評価の活用」がん検診の場合-予算獲得競争の現場から─
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概要
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平成10年度にがん検診の予算が一般財源化されて以降,自治体の担当者はその予算獲得に苦労してきた.国は「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を示し,数度の改定を経ながら科学的根拠に基づく5つのがん検診の実施を定め,平成20年度に健康増進法に基づき実施することと位置づけた.しかし,自治体にとって財源問題から財政的にはやればやるほどマイナスという構造のもとでは,持続可能な制度として問題がある.医療経済的な評価がしっかりされているとは言えない中で,現状では政治的要素や自治体担当者が感じる社会的意義など,脆弱かつ不安定な要素によって支えられている.現状では,せめて科学的根拠あるがん検診を正しく高い質で実施することに集中することで,限られた財源を有効に活用したい.特にがんによる早すぎる死を防ぐことによって,現役世代が生み出す社会の活力維持し,医療経済効果を出すことができないだろうか.がん検診に費用対効果の上からの優先順位をつけることの可否や,限定かつ単純化されたモデルによるわかりやすさや,直接,間接の効果の説明による社会的意義の立証が求められる.また,医療資源と受診率の関係や,医療経済学の視点も入れた適正な健康保険の自己負担率とがん検診の自己負担率はどこにあるのか示すことで,国の議論を牽引できるかもしれない.厚生労働省の概算予算要求上,国のがん検診推進事業によるがん検診無料クーポン券の縮小が見受けられる中,どのように住民に質の高いがん検診を提供し,がんによる死亡率を下げていくのか.医療経済学上の費用対効果評価がなされ,どの程度の費用で,人ひとりの命を救うことができるのか.がんによる死亡率を下げるために活用できることを期待している.
- 国立保健医療科学院の論文