国際保健分野におけるBOPビジネスの可能性-ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現に向けて-
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概要
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国際保健協力では,途上国において広がり続ける健康格差を前にして,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage, UHC)の実現に向けた新たな開発アプローチが必要とされている.今日,国際保健では,国連機関や二国間援助機関に加え,民間団体など多様なステークホルダーが台頭しており,なかでも,BOP(Base of the pyramid)ビジネスは,持続可能な開発アプローチとして注目されている.本稿では,近年急速な展開をみせているBOPビジネスに焦点を当て,その動向を概観したうえで,国際保健分野において,日本がBOPビジネスを効果的に活用し,途上国のUHCの実現に貢献するための方策を考察する.BOPビジネスを国際保健協力のための開発アプローチとして活用するには,第一に,BOP層を保健医療に関する製品やサービスの消費者にすることで,彼らのニーズを満たしBOPペナルティから解放すること,第二に,BOP層を生産者や販売者として市場共創のプロセスに巻き込むことで,健康の社会的決定要因に働きかけるという2つの方法がある.この両者を効果的に組み合わせることでUHCの実現を目指すことは,我が国の国際保健外交戦略にも沿ったアプローチともいえる.ただし,そのためには,1)BOPビジネスでは対象外といわれる「最底辺の10億人」とそれ以外のBOP層との間に生じうる健康格差に配慮すること,2)BOP事業の地域コミュニティと自然環境に対する影響のアセスメントを行うこと,3)BOPビジネスの事業サイクルにエビデンスに基づく実践(Evidenced based Practice, EBP)を導入し,特に代表的な案件に関してはインパクト評価を行ってエビデンスの構築に努めることが必要である.このうち,EBPの導入にあたっては,保健医療分野の研究・学術機関の関与が重要である.特に,BOPビジネスの実践にあたってはパートナーシップが鍵となるため,今後は,官,民,産,学が協働し,日本の強みを生かした形でBOPビジネスを展開していくことが期待される.そして,エビデンスの構築に関しては,BOPビジネスが健康課題解決や貧困削減に寄与するかどうかを問うだけではなく,「最底辺の10億人」と呼ばれる人々を含めた貧困層が,いかにすればBOPビジネスの恩恵を受けることができるのかを,現場での実践を通じて検証することが望まれる.