シドニーの移民資源センターの現状と展望
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概要
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現代社会では福祉国家の概念は多くの先進諸国に広く行き渡っているが、一方でこれは、人の移動を伴うグローバル化が進むなかで、本国以外の人々の福祉をどうするかという課題を提起した。歴史的に多くの移民を受け入れてきたオーストラリアは早くからこの問題に直面し、移民のための福祉の発展に取り組んできたといえる。本稿では、オーストラリアの移民の福祉サービスの中で、特に重要な役割を果たしてきた機関である移民資源センターを取り上げる。センターは、政府の多文化主義の導入当時から今日に到るまで、コミュニティを基本とした福祉サービスの中核となってきた。しかし、一方でセンターの目的や機能が不明瞭という声もあり、それぞれのセンターの実態はあまり知られていない。また近年の経済不況下の政治的社会的な変化、とくに現在の保守系連立政権下の移民政策の大幅な変化は、センターの活動に影響しているだろうと思われた。したがって、これらの疑問に応えるために、各センターのケーススタディをすることが有効なアプローチであると考えた。新規移民の数が近年もっとも多く、全国のセンターの約3分の1を占めるニューサウスウェールズ州のシドニーに焦点を絞って、おもに面接訪問及び文献調査の方法によってケーススタディを行った。調査結果において、センターの具体的な輪郭が、5つの側面(1方針、2地域性、3サービス、4職員、5職員のセンター改善に関する意見)から明らかになった。すなわち、すべてのセンターが社会正義やアクセスとエクイティの方針に沿って活動を発展させてきたこと、センターの言語サービスはその地域の新規移民割合の高い国の人々の言語と対応していること、職員については福祉だけではなく多種多様な経歴をもった人々が関わっていること、多くのセンターが人材と資金不足を感じていること等がわかった。また、設立年次の新しいセンターと古いセンターはサービスの展開に違いがあるが、主に共通するサービスはコミュニティ開発事業、就職支援、難民および人道的見地からの入国者への支援であった。さらに最近の政策変化の影響については、多くのセンターが現政府による福祉サービスの後退を嘆き、いくつかの困難に直面していたことがわかった。特に移民への社会手当の待ち期間延長によって、センターの就職支援サービスの役割が増し、また従来センターが担ってきたコミュニティワークの役割を個別的直接的ケースワークへ移行するように迫られていた。しかしセンターの資金不足と人材不足の現状では、政府の目指す質のよいサービスを展開することは難しく、またセンターの役割は、コミュニティワークの分野を発展させることに意義があるのではないかと思われた。
- オーストラリア学会の論文
- 1999-12-25