木材腐朽プロセスと樹洞を巡る生物間相互作用 : 樹洞営巣網の構築に向けて(<特集>枯死木をめぐる生物間相互作用)
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概要
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森林に生息する多くの脊椎動物が立枯れ木や腐朽木に形成される樹洞に依存して生活している。樹洞の生産とその利用を巡る樹洞営巣種間の生物間相互作用を研究する理論的枠組みとして、食物網のアナロジーであるnest web(以下、樹洞営巣網)という見方が提案され、キツツキ類の樹洞提供者としての役割について着目した研究が進展してきた。樹洞営巣網は、食物網にみられるような群集構造の特徴を備えており、構成メンバーにとって必要な資源である樹洞が構成メンバーの一部によって生産され、樹洞の消費者には階層がある(一次樹洞営巣種、二次樹洞営巣種;すなわち樹洞営巣ギルド)。樹洞営巣種の中でも、自ら繁殖のために樹洞を掘ることが出来る一次樹洞営巣種であるキツツキ類が堀った樹洞は、自ら巣穴を掘ることができない二次樹洞営巣種にとって重要な資源として利用される。樹洞の現存量によって個体数を制限される二次樹洞営巣種に対して樹洞を提供する能力を持つことから、キツツキ類は森林生態系の鍵種と考えられている。木材腐朽菌類は、キツツキ類とならんで樹洞を生産する生態系エンジニアとして重要な役割を担っている。腐朽菌類そのものが重要な樹洞生産者であり、また、腐朽菌類による木材の軟化プロセスは、キツツキ類による樹洞生産を促進する。腐朽菌類は、その種によって樹木の腐朽部位(幹や根部など)や、腐朽プロセス(辺材腐朽か心材腐朽など)の特性が異なる。このような腐朽菌類の特性の違いは、キツツキ類の繁殖成功や営巣場所選択にも影響を及ぼす。しかしながら、樹洞の形成や利用を巡る生物間相互作用の研究では、腐朽菌類の種まで同定してその役割が樹洞を利用する脊椎動物の個体や群集に及ぼす影響を明らかにした研究は少ない。本稿では、木材腐朽菌類の樹洞形成における役割に着目して、キツツキ類と樹木、腐朽菌類の三者関係についての一連の研究や、木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込み、樹洞を利用する脊椎動物群集との関係について議論した初めての研究事例を紹介する。木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込むことで、樹洞生産の経路が明らかとなり、樹洞を利用する鳥類の分類群と樹洞形成に関わる木材腐朽菌類の対応関係を明らかにすることが可能である。今後、樹洞形成に関わる多様な分類群の生物を視野に入れた樹洞営巣網の構築が期待される。
- 2013-11-30
著者
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