少数民族音楽に関する論争 : 裁判にまでなった納西古楽
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
「中国音楽の生きた化石」といわれる納西古楽は、中国雲南省にある納西族の民間音楽である。経営会社化した「麗江大研納西古楽会」は、演奏会を観光客に向けて催し、また、国内外での公演や演説によって国際的認知度が高まっている。唐代の道教の読経音楽と宋元時代の儒家の細楽が納西族に伝承されてきたこと、中原で失われた工尺譜はまだ使われていることは、国内外の研究者や旅行者に注目されている。しかし、納西古楽は漢族の音楽学者の間では受け入れられず、様々な論争が起きている。 2003年10月に発行されたC研究院主催の『芸術評論』創刊号には、音楽理論家B氏が執筆した「『納西古楽』とは何ものだ」という文章が掲載された。文章に言及された納西古楽会長A氏は名誉毀損を理由にB氏と『芸術評論』雑誌社を訴えた。本論文は、納西古楽に関する当事者各自の主張と裁判所の判断について記述し、観光少数民族音楽が、商業的伝承活動の実践家や民族音楽学家によってどのようにみられているかを探る。そして、本案の考察により、多民族国家である中国において、少数民族と漢民族同士がいかに協力し、多文化の「共生」・「共栄」を構築していくのか、また消滅の危機に瀕している伝統芸能はどのような形で、どのような方法で残されていくのかなどの課題を提起する。