石巻赤十字病院の東日本大震災対応の経験から見えてきた大災害時における被災地域の保健医療福祉提供体制のあり方
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概要
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東日本大震災では石巻医療圏において石巻赤十字病院は医療救護活動を統括する役割を担うことになった.石巻市の行政や保健所はその機能が著しく低下したため,本来行政や保健所が担うべき業務についても当初は筆者らが深く関与することとなった.石巻赤十字病院には薬の処方を求める被災者が殺到した.そこで病院正面入り口付近に対面式の処方専用ブースを設け次々に希望薬を処方した.2012年3月20日,石巻の支援に入った全ての組織の救護チームが一元化した「石巻圏合同救護チーム」を立ち上げ,圏内に当初300か所以上あった避難所全てに対し環境・衛生状態・傷病者内訳などを項目としたアセスメントを継続的に行い,時系列データをすべて記録・保管した.被害が甚大かつ広域であったため,石巻医療圏を14のエリアに分けて救護チームを割り振る「エリア・ライン制」を敷いた.主業務となる避難所巡回診療活動の他にも,食料不足の避難所35か所に対する行政への食料配給要望,衛生環境の劣悪な避難所100か所に対する,感染管理認定看護師の派遣およびラップ式トイレの配布(116台)や手洗い装置の設置(11か所),本院負担軽減のためのサテライト救護所2か所の開設,無医地域に対して定点救護所2か所の開設,回復遅延地域へ定点救護所4か所の設営及び無料医療支援バス運行,避難所内要介護者のアセスメント調査,石巻市による福祉避難所立ち上げのサポート,災害弱者用の療養型避難所の開設,巡回診療時処方薬の後日配達システムの構築,などの施策を行った.9月30日に合同救護チーム活動終了まで,登録延べ955チームが参加し,カバーした避難所数は最大328ヶ所(46,480名),避難所や定点救護所で診療した延べ人数は53,696名であった.大災害時における被災地の行政・保健所・医療の機能低下は,少なくとも発災直後から1か月程度は避けられないと思われるため,被災地外からの支援を取り込んだ保健医療福祉提供体制(厚生労働省のいう「地域災害医療対策会議」)を構築しなければならない.被災地の医療や行政機能が回復するまでは「地域災害医療対策会議」で対応方針を決定し,避難所アセスメントなどの公衆衛生環境に関する情報収集や医療救護活動に関する実働は支援医療救護チームが,地域災害医療コーディネーターの指揮下にこれを行う.その他の活動は「地域災害医療対策会議」の下,活動事案ごとの専門家によるチームが行う体制が最も現実的である.
- 2013-08-00
著者
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