亜寒帯北太平洋における動物プランクトンを中心とした低次生態系の動態に関する研究(2012年度日本海洋学会賞受賞記念論文)
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概要
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亜寒帯太平洋は,従来,生産力の高い海洋と認識されてきたが,親潮域など縁辺を除けば,常に植物プランクトン量が低く,栄養塩が余っているHNLC (High Nitrate Low Chlorophyll)海域である。このHNLC海域形成要因が,微量栄養素である鉄不足による植物プランクトン生産律速であることを,亜寒帯太平洋で行なったSEEDSなどの鉄散布実験で証明した。一方,この鉄仮説の実証により,かつて提唱されたカイアシ類摂餌圧によるHNLC海域形成機構が否定されたと考えられたが,西部亜寒帯太平洋における2度目の鉄散布実験SEEDS IIの結果から,動物プランクトン量の多い年には摂餌によってもブルームが抑制され得ることを明らかにした。これらカイアシ類の生活史を親潮域を中心として詳細に研究した結果,遺伝的差異をもった個体群の存在,地域ごとに異なる季節性や鉛直分布が明らかとなった。また,これらカイアシ類が,深層で観測される沈降粒子束に匹敵する量の有機炭素を鉛直移動によって運んでいることを明らかにした。さらに,近縁種の亜熱帯における生活史の研究から,亜熱帯の貧栄養海域への適応が亜寒帯のHNLC海域への適応放散を促したこと,環境の季節性が顕著な高緯度域に特徴的と考えられていた成長に伴う鉛直移動が,亜熱帯の大型カイアシ類においても普通に見られること等を発見した。一連の研究により,カイアシ類生物学,生態学の知見を更新するとともに,食物網動態や生物地球化学循環においてカイアシ類が極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした。
- 2013-05-15