常楽院旧蔵『一乗法界図』写本について
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概要
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新羅義相(湘)(625-702)の主著『一乗法界図』(以下『法界図』)は,韓国の華厳教学の根本となる重要な著作である.『法界図』は,(1)序文,(2)「法性円融無二相」から始まる七言三十句を屈曲させた<図印>と,(3)それに対する註から構成される.『法界図』に対しては,新羅時代から義相の系統で註釈が行なわれ,高麗時代には様々な注釈を集成した『法界図記叢髄録』が編纂された. 『法界図』にはテキストの異同の問題と,これに関連した著者の問題も存在するため,基礎的な研究が必要である.私は2年前に古書店で,日本の京都にある常楽院という寺院の所蔵印がある『一乗法界図』写本(以下,常楽院写本)の存在を知り購入した.今回は,これまで存在する『法界図』の刊本,写本と比較して,常楽院写本の性格を報告する.常楽院写本には,書写に関する記録がないため,いつ,誰が,何を底本として作成されたのかがわからない.現段階においては,紙の質などから判断して成立の下限を江戸時代と見ている.こうした中,論文においては,常楽院写本の位置づけを行うため,『法界図』の構成面に焦点を当てて調査した.特に日本伝来写本にだけ見られる「法界図章」「一乗法界図」という二つの尾題に着目した.これは鎌倉時代の高信の証言と合わせ,日本で伝写される過程で作られたものと考えている.常楽院写本にも同じ二つの尾題があるため,本写本は,日本に伝来する写本と同じ系統の写本であることがわかった.より具体的な検討は今後の課題とする.
- 日本印度学仏教学会の論文
- 2013-03-25