『菩薩地』におけるagotrasthaについて : 「成熟品」と「菩薩功徳品」
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概要
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種姓(gotra)という概念は仏教教理の長い歴史のなかで複雑な発達過程をもつ.特に瑜伽行派では,本性住種姓(prakrtistham gotram)と習所成種姓(samudanitam gotram)という二種姓,無種姓(agotra),不定種姓(aniyata-gotra)などの新しい術語を生み出して,独自の展開をみせた.そのような術語のなかで,agotrasthaという語は種姓に立脚した者(gotra-stha)の否定概念であり,般涅槃あるいは菩提に関する資質がない者とされる.本論文では,『菩薩地』(Bodhisattvabhumi)に焦点をあて,agotrasthaという語に注目する.『菩薩地』のなかでagotrasthaに関する教説は,第1章「種姓品」,第6章「成熟品」,第18章「菩薩功徳品」の3つの章に確認できる.そこで,各章の教説を抽出して,agotrasthaと呼ばれる者について考察する.まず「種姓品」の教説は,agotrasthaがどのようなものかを明かす.agotrasthaとは,種姓が無いことを意味し,無上正等菩提の達成のための資質がない者である.次に,後の2つの章では,agotrasthaに対して菩薩はどのような態度を示すのかが明らかにされる.「成熟品」の教説は,菩薩の成熟対象として,声聞,独覚,菩薩にagotrasthaを加える.すなわち,菩薩はagotrasthaを善趣へ向けて成熟する.「菩薩功徳品」の教説は,衆生の要素と教化されるべき者の要素との差異について説き,教化されるべき者が一切衆生と言いながらも,菩薩は教化対象としてagotrasthaを除外する.従って,この2つの菩薩の態度から,菩薩はagotrasthaを蔑ろにしないが,菩薩による成熟と教化との間には対象となる衆生に差異があると言える.
- 2013-03-25