Maitrayani SamhitaにおけるKesin Darbhya : MS I 6,5(1d): 94,4-8 brahmaudanika火についての記述
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概要
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古ヴェーダ文献に現れるKesin Darbhyaは,彼の名に帰せられる祭式行為や,祭式によって覇権を得たエピソードなどによって,「祭式に精通し,政治的にも力のあった王」として知られている.しかし,彼についてのおそらく最も古い記述であるMaitrayani Samhita I 6,5(1)は,原文理解が大変に難しく,現在まで正しく理解されてこなかった.本稿ではこの句の理解のため,avarudhmahiという1. pl. mid.のアオリスト語形, annam attiの意味, etad dha sma va aha+acc.の用法,tad ahurの用法とitiの欠落について,などの統語論・文法に関する問題を明らかにし,正しい訳を試みた.この訳によって,この箇所に隠された,祭式行為とK.D.の人物像に関する背景が浮かび上がる.ここで説明されるのは,brahmaudanika火という,元は家の火でありながら,後に祭火へと変成する火についてである.MSとVadhula-Anvakhyanaに見られる,人間Pururavasと女神Urvasi,その子であるAyuの物語においても,この「聖と俗」の両方の性質を持つbrahmaudanika火が隠れたモチーフになっている.本稿ではそのことを指摘し,brahmaudanika火の性質を明らかにする.そして,K.D.がこのbrahmaudanika火についての言説に引き合いに出されていることに意味が隠されている.つまりbrahmaudanika火の性質に擬えて「辺境民の食べ物(俗な食べ物)を食べる」と言われていること,また,Kesin Satyakamiに「K.D.の経済的繁栄は我々のおかげ」と暗に言われていることから,K.S.のK.D.に対する優越性が窺われるのである.本研究の最後に,そのことが,MSが地理的にK.D.の影響の少ない場所に位置したことによる可能性を示唆した.
- 2013-03-25