医師の役割意識と苦悩の創出 : 現代日本の総合診療医の事例から(<特集>界面に立つ専門家-医療専門家のサファリングの人類学)
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概要
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近代医療を担う医師たちの苦悩は、医学に内在する不確実性の問題や医療の安全と責任、患者の自己決定権や家族関係をめぐる倫理的な葛藤、公衆衛生対策や医療経済政策の影響、そして医師と患者の権力関係、という様々な要因が絡まりあった中で起きる社会的な経験であるといえる。医療化論において、医師による患者の統制や管理、それによる患者の無力化が批判の対象とされてきた。しかし、そのような医師の行為が形成される背景には、医師の文化や価値体系に裏打ちされた役割意識がある。ところが、そのような現場の医師たちの様々な感情や苦悩といった主観的な経験はほとんど顧みられてこなかった。本稿の目的は、特殊な役割意識を持つ医師たちが、実際の臨床現場で何に苦悩しているのか、それは医師にとってどのような意味があり、どのような対処プロセスがとられてきたのかを明らかにすることである。分析に際しては、実際に現場で働く医師たちのインタビューデータを用いた。インタビュー対象者は日本で働いている総合診療医17名である。医師たちの感情に注目し、彼らの苦悩を概観する中で、新人医師と中堅医師、ベテラン医師の語りを比較し、苦悩の経年変化や対処の方法の違いを確認した。その後、3名の新人医師の詳細な語りの分析を通じて、彼らが経験した患者の苦悩や死、失敗経験が、医師たちにどのような否定的な感情をもたらすものであったのかを分析した。結論として、医師たちは役割意識を持つことによって、患者の苦悩や死に直面することに耐えられるという側面がありつつも、その役割意識によって新たな苦悩が創出されているということが明らかになった。医師の役割意識は、患者や社会からの期待によっても影響を受けており、医師の苦悩も時代とともに変容するものでると考えられる。
- 2013-01-31
著者
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