医療専門家のサファリングとその創造性 : 患者、利用者、依頼人との距離感という困難を越えて(<特集>界面に立つ専門家-医療専門家のサファリングの人類学)
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概要
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本稿の目的は、近代以降の医療・福祉をめぐる制度的専門家(以下医療専門家と表記)が臨床現場で抱えるサファリング(苦悩)の様態を明らかにし、医療専門家が自身のサファリングに向き合いながら、現場から編み出した対処の術(すべ)について明らかにすることである。1970年代以降、人文社会科学分野の医療化批判論や医療専門家内部での批判的検討を受けて、医療現場では問題解決志向システムという考え方に基づいて医療システムや医学教育を改革し、医療実践にかかわる監査委員会の設置など、改善策を打ち出してきた。度重なる医療改革や監査システムの強化は、医療専門家にとって臨床現場で新たな問題を生じさせるとともに葛藤や苦悩をも生み出してきた。他方、医療化批判論や医療人類学分野の病者のサファリング研究の文脈では、病者の苦悩のみが扱われ、医療専門家が抱える苦悩は看過されてきた。また、医療専門家自身も社会や患者からの期待に応えるように、自らの苦悩を隠したままであった。そこで、本稿では、医療人類学における病者のサファリング研究を敷衍して、医療専門家が抱えるサファリングについて記述、分析するとともに、近代の医療の専門性研究に新たな視座を提示することを試みる。具体的には、日本の看護師、精神保健福祉士、成年後見人という3種の専門家の事例を提示し、そこに見られる多職種間連携の分断化の問題や臨床現場での患者、利用者、依頼人との距離感という問題に伴うサファリングを明らかにする。そのうえで、医療専門家自らが編み出したサファリングへの対処の術としての知恵や技法、そして臨床現場で形成されたサファリングを共有する場について検討する。結論として、医療専門家が経験するサファリングは否定されるべきものでも排除されるべきものでもなく、サファリングと向き合うことこそが、サファリングに対処するための新たな術を生み出すという創造性の源泉となることを明らかにする。
- 2013-01-31
著者
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