「日本語母語話者が非母語話者の言葉を置き換える」ということ : 第二言語習得研究における「言い直し」の再考(<特集>言語・コミュニケーションの学習・教育と社会言語科学-人間・文化・社会をキーワードとして-)
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概要
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本稿は,実験的会話において日本語母語話者が,非母語話者の使用した言葉を置き換える過程に注目し,第二言語習得の研究での「言い直し(recasting)」と呼ばれる現象を会話分析の手法を用いて分析・記述し直すことを目的とする.母語話者は,非母語話者の発した言葉を別の言葉に置き換えることを通して,母語話者自らの言語的規範を志向していることを論じる.母語話者は,言葉の置き換えが, 1)非母語話者にとって認識できるように振る舞い, 2)非母語話者の言語使用の評価として受け止められることを避ける.この2つの手立てを用いることで,母語話者は自らの言語的規範への志向を示していることを,本稿は明らかにする.また,母語話者の言葉の置き換えに対する非母語話者の反応を観察することで,ある言葉に関して「より知る者(expert)」「より知らない者(novice)」というアイデンティティ対が,非母語話者にとって重要なものとして志向されることを示す.最後に,第二言語習得研究において,非母語話者の「学習」を検証する際,母語話者と非母語話者の当事者が,実験的会話をどのように組織しているのかを,より厳密に分析していくことの必要性を論じる.
- 社会言語科学会の論文
- 2009-08-31