「なにかが欠けている発話」に対する他者開始修復 : 会話の事例から「文法項の省略」を再考する(<特集>相互行為における言語使用:会話データを用いた研究)
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概要
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本研究は,日本語の文法的特徴として指摘される「文法項の省略」という事象を相互行為の中でとらえなおす試みである.省略のある発話を言語形式から規定するのではなく,他者開始修復の事例を手がかりに,ある発話がどのようなプロセスを経て会話の当事者たちにとっての「なにかが欠けている発話」となっていくのかを解明する.事例の詳細な分析の結果,まず,日本語では,先行発話で明示された発話要素に対する修復と,先行発話では明示的に表現されなかった(つまり欠けている)発話要素に対する修復では,修復の開始方法が異なることが明らかになった.後者の場合,修復自体を通して,ある発話に「なにかが欠けている」性質が付与されると同時に,その欠けた部分を補修する作業が行われる.また,会話の参与者が指向する「なにかが欠けている発話」は,単に特定の発話要素が形式上あるかないかという問題に留まらず,その発話の意味,およびその発話を通して行われる行為にかかわる問題をも含むものであることも示された.統語的制約の緩い日本語の特徴は相互行為で利用可能なリソースであると同時に,「なにかが欠けている発話」を生み出す危険性を孕む.その弱点は,会話の中で修復という「支援装置」によって補強されているのである.
- 社会言語科学会の論文
- 2008-03-31