刑法学は,なぜ,刑務所を語らなくなったか(刑罰としての拘禁の意味を問い返す)
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概要
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日本の刑法学の刑罰論ないし刑務所論については,事実を前提としない議論ではないかとの厳しい批判が寄せられている.刑罰を正当化する規範的根拠についても語らなくなっている.われわれがどのような刑罰制度を採用するかは,われわれがどのような社会を形成しようとしているのかに大きく関わっている.今,日本の刑法学に求められているのは,日本国憲法に適合的な刑罰制度とは何かを,そしてまた,「社会的排除」に基づく刑罰制度がいかなる結果を生じさせるかを国民に率直に問いかけることである.「社会による赦し」という刑罰の意義をも踏まえて,「公刑罰の論理」に基づいて,死刑を含む「残虐な刑罰」を法定刑および量刑において回避するととともに,「受刑者も市民ないし国民である」として,刑務所を「廃棄物処理場」にではなく「リサイクル」施設にしていくこと,そして,「刑務所の社会化」を進めていくことは,日本国憲法に基づく,国だけではなく社会の側の責務でもある.それを法定刑,量刑,行刑・更生保護の場面を通じて理論化し,その射程を法廷の外の世界に,そして,刑務所の塀の中の世界に及ぼしていくことが刑罰論の課題である.
- 2012-10-31