埼玉県荒川水系江川下流域に自生するサクラソウ野生集団における遺伝的多様性の維持・回復のための保全遺伝学的研究
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概要
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埼玉県の荒川水系江川下流域に自生するサクラソウ集団(上尾集団)における遺伝的多様性の維持・回復を目的として、人工授粉による個体増殖、土壌シードバンクによる個体増殖および自生地外個体の導入の3つの手法の有効性を検討した。異型花柱性の他殖性植物であり、クローン成長を行うサクラソウの長期的な存続には、集団内のジェネット数や花型比が重要な要因となる。2003年の先行調査では、上尾集団には2000以上のラメットの生育が認められたが、DNA分析の結果から、わずか10ジェネットで構成されていたこと、さらにそのうち長花柱花は1ジェネットのみであったことが報告されている。今回、先行研究より多くのラメットを対象に、SSRマーカー8座を用いて遺伝子型を決定したところ、11ジェネットが見出された。そのうちの10ジェネットは先行研究と同一であり、新たに加わった1ジェネットは2005年に初めて発見された白色花弁のジェネットであった。SSRマーカー31座に基づく親子鑑定の結果、白花ジェネットの両親は集団内に現存する長花柱花と短花柱花であることが示唆された。自然条件下では小花あたりの平均種子数が5.5と低い値を示したが、人工授粉処理ならびに酢酸カーミン溶液を用いた花粉稔性調査より雌性および雄性の稔性が確認され、人工授粉を行うことで平均種子数が3倍以上増加した。また、現存ラメットから10cm離れた計70箇所から深さ0〜5cmの土壌を採取し、冷温処理後、変温条件下で発芽個体を調査したが、サクラソウの実生は確認できなかった。さらに、上尾集団由来であるとされ、現在は自生地外で保存されている長花柱花2ラメットについて、SSRマーカー8座の遺伝子型に基づくアサイメントテストを実施したところ、当該ラメットの示す遺伝子型が生じる確率は全国の32の野生集団のうち上尾集団で最も高く、次いで同じ荒川流域の田島ヶ原集団であった。加えて、他の30集団における確率が0であったことから、2ラメットの長花柱花は荒川流域の集団由来であると推定され、上尾集団への導入候補個体になりうると考えられた。これらの結果から、上尾集団の遺伝的多様性を維持・回復する手段として、まず集団内に現存するジェネット間での人工授粉による新規ジェネットおよび花型の作出を試み、状況に応じて、自生地外で保存されている長花柱花の導入を行うことが有効であると考えられた。
- 2012-11-30
著者
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本城 正憲
筑波大院生命環境科学研究科
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本城 正憲
筑波大学生命環境科学研究科
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大澤 良
筑波大学生命環境科学研究科植物育種学研究室
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吉田 康子
筑波大学生命環境系:(現)神戸大学大学院農学研究科附属食資源教育研究センター
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本城 正憲
筑波大学生命環境系:(現)東北農業研究センター
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小玉 昌孝
筑波大学生命環境系
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大澤 良
筑波大学生命環境系
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吉田 康子
筑波大学生命環境系
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