動学的要素需要関数による製紙企業の規模と範囲の経済性の計測
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概要
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本稿では動学的要素需要関数を用いることによって,日本の製紙業における規模と範囲の経済性に関する企業レベルでの検証を試みた。具体的には,可変的生産要素として労働,原材料を考慮し,資本設備を準固定的生産要素と考えた制約付き費用関数を推計し,調整費用を考慮したオイラー方程式の動学的生産要素需要システムによる連立方程式体系での推定を行っている。まず,製紙業界の中堅企業である大王製紙,北越製紙,三菱製紙,中越パルプ,東海パルプの5社については洋紙と板紙が生産されているため,生産物をこの2種類に分類して規模と範囲の経済性を検証している。計測の結果,規模の経済性は三菱製紙を除くすべての企業で検出されるが,範囲の経済性は大王製紙,北越製紙でのみで確認できるにとどまった。また大手企業の王子製紙,大昭和製紙,日本製紙では,板紙生産が分社化したグループ子会社で専業とされているため,洋紙のうち主力の生産物である新聞・印刷用紙とその他洋紙を2つの生産物として定義した分析を行っている。その結果,日本製紙と大昭和製紙はともに規模の経済性が認められたものの,王子製紙においてはむしろ規模の不経済が見られた。また,範囲の経済性については日本製紙でのみ確認することができ,王子製紙と大昭和製紙では統計的に検出されなかった。先行研究の効率性分析と合わせて考えれば,日本製紙,大王製紙,北越製紙は3社とも相対的に効率性が高い企業であると計測されていることから,日本の製紙業界における企業の費用効率性の要因としては,多品種生産における範囲の経済性の発揮が重要であることが,動学的要素需要関数モデルによる計測が明らかになった。