アイルランド公教育の成立をめぐって : 研究動向と課題
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概要
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アイルランド教育史は、従来イングランドに偏重してきたイギリス教育史を修正すると同時に、公教育制度の成立要因を探求する比較教育史理論研究にとっても興味深い事例である。とりわけ1831年に成立した国民学校制度は、「遅れた」農業国アイルランドにおいて先進工業国イングランドよりもはるかに早い段階で公教育が制度化されたのは何故かという問題を提起し、工業化や都市化と公教育制度の発展を結びつける社会統制論的な説明に対する反証を提供している。しかしこうした重要性に比して、アイルランド教育史の動向は日本ではほとんど紹介されていない。そこで本稿は、アイルランド教育史、とりわけ1831年に成立した国民学校制度に関する諸研究を概観し、その成立要因に関する説明を検討する。第一節では国民学校制度とそれが成立する歴史的背景を簡単に説明する。第二節では、D.H.アケンソンの『アイルランドにおける教育の実験』をアイルランド教育史における画期的な研究として位置づけ、その概要を紹介し、また不十分な点を論じる。第三節では国民学校制度に関する近年の研究を紹介し、それらがアケンソンの研究を乗り越えようとするものであることを示す。結部では、アケンソン以降のアイルランド教育史研究が教育史研究において持つ意義が考察される。
- 2012-09-30