明治期の東京市職員 : 人事制度からの接近
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概要
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明治期の東京市が抱えていた人事制度上の問題点とそれへの対応を明らかにするとともに,職員層についての菅山真次説と東京市の事例を踏まえ,官公庁職員の労働市場のあり方について仮説を示した。東京市では,職員の低い定着率や情実任用の存在が問題視され,職員の待遇向上と任用規則の整備が課題とされた。その結果,昇給が定期化し,退隠料支給年限が短縮され,職員の定着率は高まった。しかし,物価と諸職業賃金が上昇するなかでの職員の待遇の実態は,吏員であっても世帯の生計を支えるのに不充分なものにすぎず,低い待遇の雇員が増加する事態が進行した。職員の身分も不安定であったから,職員の流出は無くならなかった。吏員の任用資格を試験合格者か正規の中等以上の学校卒業者に限定する方針のもとに制定された市吏員任用規程は,実際の運用においてその方針が徹底されなかった。官公庁職員の労働市場は,激しい流動性,供給の過剰,低い待遇を特徴とし,正規の学歴を持たない者が縁故や実務経験を手段として参加し,上昇していく可能性も開かれていたと考えられる。
- 2009-11-25