函館における海産物移出の展開と植民地商人
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概要
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本稿は,近代日本と植民地台湾の流通過程の分析を通じて,日本帝国の植民地獲得が国際的な東アジア通商網の形成に与えた影響を検討した。この課題を達成するため戦間期の函館・基隆間の海産物流通を対象として取り上げ,日本人商人と植民地商人の関係を分析した。具体的には,第一に日本人商人が対アジア交易に参入する過程,第二に「帝国化」した日本における台湾人商人の意義,第三に日魯漁業の前方統合が台湾人商人の活動に与えた影響を歴史的に考察し,帝国日本の経済的な特質である植民地への依存が流通の局面で形成される過程や,その担い手間関係の変容を検討した。その際,国民国家的な研究枠組みや華商ネットワーク論の立場から提出された既存の研究成果を踏まえつつ,両者の議論から欠落した帝国日本と植民地の経済的な関係性に着目し,その変化が取引制度に与えた影響を論じた。こうした視角から本稿では,「植民地化」という外部環境の変化に対応した植民地商人の役割が「帝国化」した日本とアジアを媒介する存在であったこと,しかしその役割は日中間の政治環境の悪化や取引環境の変容によって後退したことを示した。
- 2009-05-25