近世ハプスブルク君主国・下オーストリアにおける領主層の所領収益構造
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概要
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本稿の課題は,領邦下オーストリアを事例として,近世における領主層の所領収益構造を,その内部を四分する諸地区の差異・特質に留意しながら分析することにある。この領邦の産業の主体は農業であり,第一に林業,次いで農耕・牧畜が重要であった。ここでは17世紀に強化された賦役労働に支えられた直接経営に基づく収益が全体の30〜50%に達し,いわゆるグーツヘルシャフト地域には及ばないものの,少なからぬ重要性を有していた。一方で領主層は土地保有移転税や十分の一税などの活用によって貢租収益を高い水準で得ることに成功し,所領経営に腐心して平民層の抑圧の下に収益規模を拡大しながら,直接経営と貢租をいわば二本柱とする収益構造を確立した。こうして地域において確固たる経済基盤を自立的に形成することに成功し,王権に対し経済的に依存する必要を持たなかったことは,彼らが近世における国家形成の過程において王権に取り込まれることなく,時々の状況に応じて衝突と接近,対立と協働の間を絶えず双方向的に流動しつつ王権との関係を構築する上で,重要な前提を提供したといえよう。
- 2007-07-25
著者
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