フロンティア軌道理論と産学協同 : 福井謙一特許の分析
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概要
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高度成長期における研究開発体制の特徴の一つは,大学と産業との直接的・個別的な産学協同関係が形成されたことである。福井謙一によるフロンティア軌道理論に関する科学研究は,この直接的・個別的な産学協同関係の下で成し遂げられた。科学研究と応用研究の密接な関係は戦前から継続しており,福井も化学反応に関する理論研究を行いながら,同時に石油化学工業が課題としていたポリエチレン重合やプラスチック新重合方法の開発といった実践的な応用研究に取り組んだ。高度成長期において特徴的なことは,福井がフロンティア軌道理論を完成させるために,特定のテーマで多くの企業と共同研究を行い,企業の持つニーズや資金といったリソースを利用する,研究マネジメントを行い得たことである。他方で,化学企業は福井による実験研究の成果を,各企業の名義で特許出願し取得することによって,排他的に確保し経営に資することができた。科学研究と社会的に要請される実践的課題の柔軟な組み合わせが可能であったことが,直接的・個別的な産学協同関係の特色であり,高度成長期における科学研究の一つの条件であった。
- 2007-07-25