働くことと雇われることのあいだ : 賃労働の過去と現在(<特集I>社会学が捉える現代資本主義-新しい『経済と社会』の可能性-)
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概要
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本稿は、現代資本主義の変容を考えるために、労働の雇用化という現象を歴史的かつ理論的に考察する。とりわけ、労働の現状を「雇用という規範の貫徹とその脆弱化」と捉え、その現代的意味と歴史的由来をとりあげる。具体的には以下の3点について議論する。(1)第2次大戦後に本格的に機能しはじめる「賃労働社会societe salariale」の特性を確認しながら、そのなかで労働の雇用化がはたした機能を明らかにすることを試みる。雇用化が社会的移動のための均質空間の成立に寄与したことが、逆説的に現在の労働の不安定化をもたらす条件となることについて考察をくわえる。(2)雇用化の要である「労働契約contrat de travail」概念が19世紀末から20世紀初頭のフランスにおいて成立する過程を一瞥し、そこに生じた労働をめぐる問題設定の転換の意味を明らかにすることを試みる。そのさい、賃労働の本質とされる従属性(指揮監督関係)、労力と時間と報酬の関係づけ(マルクスの「抽象的労働」の図式)を中心に議論を展開する。(3)労働契約にもとづいて雇用化された労働の基盤となった「サーヴィス」の要素が、その後、資本主義の生産組織の変容につれて、典型雇用のような労働の枠組みから労働実態を逸脱させていく様相を検討する。労働関係における商取引的性格と家事労働的性格の増大を手がかりにして、雇用という規範にかたどられた労働の概念に生じつつある変化について考察する。
- 2012-05-26