新労働党の「テロリズム防止」政策の批判的検討 : ポスト・テロ時代の社会統合について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿の目的は、イギリスのテロリズム対策の分析を通して、新労働党による社会統合哲学の意義と限界を明らかにすることにある。新労働党の課題は、文化的多様性が増し、またそれが不安へと結びつくなか、多様な人々の関係を安全に保ち、社会システムの円滑な作動の基礎としての社会的結束を打ち出すことにあった。その基盤として強調されたのが、民主主義的な価値により定義された「ブリティシュネス」という観念であった。その価値へのコミットメントを通じて、多様なコミュニティの間に結束が生み出されると考えた。このような価値統合を重視する傾向は、テロ対策にも反映された。新労働党は、テロ対策において、テロを生み出す背景に取り組む「防止」政策を重視した。その要諦は、コミュニティを通じた民主主義的価値の伝達にあった。ムスリム・コミュニティに民主主義への恭順を促し、テロをもたらす邪悪な思想から若者ムスリムを保護することが企図された。だが、そのような価値の共有を過度に求める姿勢は、社会統合における経済的・社会的差別や格差の影響を軽視し、テロ政策や外交政策に従わない者を価値を共有しない「敵」として排除する危険をともなうものである。この問題は、新労働党の統合哲学の限界を示している。それに対して、ポスト・テロ時代における社会統合において必要なことは、価値や道徳による過剰包摂ではなく、「情念」の作用を理解し、それに適切に対応することにある。
- 2011-06-30
著者
関連論文
- ポスト多文化主義における社会統合について
- イギリスの人種関係政策をめぐる論争とその盲点--ポスト多文化主義における社会的結束と文化的多様性について
- 新労働党の「テロリズム防止」政策の批判的検討 : ポスト・テロ時代の社会統合について
- イギリスの人種関係政策をめぐる論争とその盲点 : ポスト多文化主義における社会的結束と文化的多様性について