ジャーナリストと生活戦略 : 民主化以降ベナンにおける人とメディアの関わり
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概要
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本論は西アフリカ、ベナンのラジオ局の調査にもとづいて、ローカルメディアの具体を紹介し、ジャーナリストの生活史からメディアの変化を提示する。しばしば先行研究は個々の地域の事例からマクロな問題点をみちびくことに偏っている。本論は民主化という社会変動を背景に、メディアと関わる個人の生活史を検討することで先行研究を補う。ベナン(旧ダホメ)は1960年に独立し、70-80年代の社会主義体制をへるなかで、メディアは政権の管理下におかれた。1990年民主化し、1997年に放送周波自由化がなされた。国営放送は全国の放送網と多言語放送を整備したが、新興の民営放送局は娯楽番組や視聴者参加型の番組を導入して、市民の間に自由な対話を根づかせた。一方、ジャーナリストの活動は多彩である。国営放送と労働大臣の報道担当官を兼務する者、民間ラジオ局を設立し、アフリカ文化の活性化を呼びかける者、語学力とキャリアで就職した女性、地方局に勤務し、伝統文化の継承を呼びかける者などである。比較対照から次の特徴が導かれる。1.就職と生育環境との関係。2.ありとあらゆる人脈をたどる就職。3.不安定な雇用状況と多くの異動、転職。デモクラシーは未来の可能性とともに市場における過剰な競争を招いた。ところで、ブルデューは1970年代のフランスで、新興中間層がメディアや広告などの将来が不確定で不安定な職を選好したという。不確定な未来は希望や可能性があるとも読み取ることができ、ゆきづまり感を先延ばしできる。ベナンの若いジャーナリストの異動志向も、将来の不確定を可能性と捉えるためかもしれない。彼らの多様な生活戦略の重なりが次代のデモクラシーを再生産する。
- 2012-06-30