サミュエル・ベケットの前期小説三部作における無感情性と「リリスム・クリティック」
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概要
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従来サミュエル・ベケットは抑揚や感情を排した文体の作家とみなされる傾向があるが、文学テクストにおける感情の詩的表現をリリスムと呼ぶとき、ベケットはまさにその「無感情性」によって独自のリリスムを創出する。『モロイ』や『マローヌは死ぬ』の語り手は、「愛」や「死」といったリリスムの本質的かつ伝統的な主題を突き放すように語るが、それかかえって強い感情を喚起する。また、自分には感情がないという『名づけえぬもの』の語り手は、「涙」「吐露」「激情」といったリリスムの特権的モチーフを笑いの対象へと転化し、従来の価値を剥奪し、徹底的に愚弄する。このようにベケットは文体上の無感情性によってパトスや感傷主義的なリリスムを回避し、リリスムの枠組みを用いながら伝統的なリリスムヘの反逆や紋切り型感情表現の批判をおこなう。リリスム批判を内在するという点でベケットのリリスムを「リリスム・クリティック」(モルポワ)と呼びたい。
- 2009-10-05
著者
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