佐々木すぐるの活動と音楽教育観 : 戦前の著作を中心に
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概要
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本稿は、大正から昭和期において童謡の作曲家のひとりに挙げられる作曲家・佐々木すぐるを取り上げ、彼の活動を明らかにするとともに、音楽教育に携わった経歴に注目し、どのような音楽教育観を持った人物であったのか読み解くことを目的とした。佐々木は、東京音楽学校在籍を挟み教員として二度務めた後、童謡の作曲を本業とし、昭和期には日本コロムビアの専属となったが、自作曲をテキストに各地で教員に向けた講習会を催し、戦後は教科書編集に携わることで再び学校音楽教育に関わっている。佐々木が生きた大正時代には、それまでの唱歌を批判した童謡運動を機に創作童謡が生まれ、昭和初期にはレコード産業が日本においても本格的に始動し、レコードのための作品がつくられるようになった。このような音楽界の動きや唱歌と童謡の対立を思う時、教職に従事し、教科書編集や講習会開催を行い、童謡を作曲し、商業ベースであるレコードにも関わるという彼の経歴には、興味を惹かれるものがある。しかし、佐々木に対する認識は経歴で止まっており、童謡や音楽教育史の研究では未だ彼を深く取り上げていないことから、今回の研究に至った。彼の著作を調べたところ、雑誌などへの発言は非常に少ないが、戦前、自作を収めた楽譜や著作物を自ら編集・発行し、そのいくつかに意見や考えを述べていることがわかり、本稿の資料はこれらの楽譜や著作物を中心に、適宜、雑誌記事や広告も使用した。本文の構成は、1. 佐々木の著作を概観し、2. 様々な人物との交流を辿り、3. 彼の活動を明らかにするとともに活動と著作に収められた楽曲との関連を考察する。続く4. では佐々木の音楽教育観の、さらに5. では彼が目標とした音楽教育の読み解きを試みた。結果、佐々木の活動には、作曲家、教育者、経営者という面が浮かび上がり、中でも、自作の出版化、教員やその卵たちを対象に自作の教材利用を働きかけた講習会、自らが出版した楽譜集や著書の中に教材として使用するにあたっての解説等を設けていたことなどから、教育者としての面が強く表れていた。彼が行ったこのような音楽教育へのアプローチは、自身の教員経験や唱歌への批判によるものと考えられ、一方で童謡に対してはすべてに賛成ではなく、自作に、そして自らに矜持を持ち、他の童謡作者とは一線を画した。この唱歌批判と童謡万能を否定する主張が彼の音楽教育観であり、これを原点に表れた行動が、創作であり自作の教材化のための様々な工夫であると捉えられた。また、著作に収められた楽曲のタイトルや作詞家の分析によって、彼の活動がレコード界へと移行した変化は明らかとなったが、教育者であり続ける姿勢に変化はみられなかった。さらに教材の解説書において、佐々木は、児童が教材である楽曲への発想を発見することを基盤に、最後にはその楽曲を理解し味わうに到るという、音楽教育への目標を著し、彼は、この目標を適える上で相応しい楽曲を創作しようとしていたのではないかと考えられた。