古英詩The Ruin における感覚的表現のリアリズム
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概要
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古英詩の中の哀詩「廃墟」は,タイトルが示すとおり,破壊された建造物が廃墟となり,観察者はその年月を想い,過ぎ去った栄光の時代を懐かしむというものである。約40 行という小篇であることからか,残念ながらこの詩は研究論文も少なく,その文学的評価はあまり問題にされていないことが現状である。しかしながら,その文体には近代文学にも通じる洗練された手法により,詩作におけるリアリズムの追求が見られる。詩の構造の中で,風景を描写する最初の手法は「視覚」のみを使い,詩の中盤では視覚に加え「聴覚」による描写が続き,終盤では,人にとってより近い感覚として「触覚」を用いて表現している。聞き手の想像力を高めるために,最初は目に入った廃墟の静かな描写を,そして次第に生きている人間の声や動きのある描写に変わり,さらに手で触れれば熱さが伝わる浴室の描写となっている。その手法が,マーク・トウェイン作『トム・ソーヤーの冒険』の,かの有名なジャクソン島で主人公が目覚めた時の自然描写と類似していることは,古英詩の時代にも詩作においてリアリズムの試みがなされているという仮説に対して論拠の一つとなる。
- 2012-01-31
著者
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