グローバル金融におけるビジネスと詐欺の境界 : 合成CDO「アバカス」および「デッド・プレジデンツ」の訴追・捜査事例
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概要
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本稿の目的は、2010年に米証券取引委員会(SEC)による訴追および捜査を受けた合成CDO(債務担保証券)の組成・販売の2件の事例を通じて、グローバル金融取引における「出し抜き」「騙し」「詐欺」の本質的差異について整理し、ビジネスと詐欺の境界に関する考察を行うことである。最初に分析するのは、2010年4月にSECによる訴追を受けたゴールドマン・サックス(GS)による「アバカス(Abacus)」と呼ばれる合成CDOに関する事例である。アバカスはGSによって組成・販売されたが、大手逆張りヘッジファンドのポールソンが当該合成CDOに対するCDSの買い手となっていた。アバカスは大幅な値下りからポールソンは巨額の利益を得たが、SECはGSがポールソンの関わりを顧客に十分に開示していなかったことは「決定的情報の非開示」にあたるとして訴追した。次に分析するのは、2010年5月にSECによる捜査を受けたモルガン・スタンレー(MS)による「デッド・プレジデンツ(Dead Presidents)」と呼ばれる合成CDOの事例である。デッド・プレジデンツはサブプライム関連の住宅ローン担保証券から合成されたCDOであり、その価格下落に賭けた側が結果的に同CDOの値下りによって利益を得た点についてはアバカスと同じである。一方、MSが行ったのは組成のみであり販売は他の金融機関が行ったこと、ファンドの価格下落に対する賭けを行ったのがMSのトレーダーであった点でアバカスと異なる。調査方法としては、訴状および主として米国メディアの記事等の資料の分析を行い、その上でグローバル・ファイナンス分野の法律専門家および主要なグローバル金融機関5社のシニア・プロフェッショナル5名に対するインタビューを行った。これらの事例の比較分析を通して、金融取引は厳しい「出し抜きあい」の面を持つ一方で「騙し」との境界は曖昧にならざるを得ない半面、「詐欺」に該当することを証明するためには「認識」と「意図」との存在が決定的な要素であることを明らかにする。最語に、ギデンズ(Giddens,A.)のモダニティーを巡る3つのフレームワーク(「脱埋め込み」「信頼」「再帰性」)を援用して、グローバル金融ビジネスの本質についての考察を行う。
- 2011-09-30
著者
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