1960年代以降の日本におけるアメリカ黒人文化研究の動向
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概要
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本稿は、1992年11月20日-23日、シアトルで開催された第35回アフリカ学会の『アフリカ諸国の独立とアメリカの黒人運動が日本の黒人文化研究にあたえた影響』と題するシンポジウムで、文学分野における60年代以降の研究動向を担当した筆者が発表したものである。60年代から始まっためざましい進展の第一は12巻の『黒人文学全集』(61-62年)の刊行。奴隷制時代の民話、民謡から最新作家に至る多様な作品を紹介し、黒人文学に対する日本の読者の関心を呼び起こした画期的企画であった。その補遺、第13巻として日本人研究者による初の黒人文学評論集が翌年、奴隷解放百周年に刊行されたのを機に、アメリカ文学会や『英語青年』誌上のシンポジウムに黒人文学が活発にとりあげられるようになった。大学の英語テキスト業界でも、60年までの四半世紀にわずか2種類だった黒人作家のものが60年からの10年間に40種類出ている。とはいえ、評論やテキストに選ばれる作家の範囲がごく限られていた(ライト、ヒューズ、ボールドウィン、エリスン)のは、資料も情報もまだきわめて不十分だったこと、及び黒人文学を抗議文学としてのみ見ていたことの反映であろう。70年代半ばにやってきた新しい波は翻訳の世界に最も明白である。表Aで見ると40-74年の単行本翻訳で女性作家のものは2冊だけだが、75-92年には37冊出ている。70年代半ばから動き始めた波を一挙に推し進めたのは7巻の『北米黒人女性作家選集-女たちの同時代』(81-82年)である。編者は「人生の本質から始めて」日本人読者の心を開く意図をもって、各巻に日本の現代女性作家の読後エッセイをつけ、共通性を強調した。評論集『わたしたちのアリス・ウォーカー:地球上のすべての女たちのために』でも、題名が示すように作家のメッセージを人種を越えたところで受け止めようとする姿勢が見られる。表Bが示す通り、ウォーカーやモリスンに関する評論の数はわずか数年の間にライトやボールドウィンに肉薄し、視点もかつての一律的傾向に比べ、アフリカ、カリブ、アメリカ先住民、アジア系アメリカ人作家との比較など、グローバルになっている。こうした動きは、政治や経済の世界と違うより深い黒人に対する理解が、文学を通して日本の社会に浸透してきたという希望を抱かせてくれる。
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