フランスにおける作物育種研究の展開 : 生物多様性の分散的管理のために
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概要
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フォーディズム農業の下での品種イノベーションにおいては、構想と実行の分離の原則に基づいて、公立試験研究機関や民間種苗会社が育種研究を実施し、そこで開発された種苗を用いて、農業者が農業を実践した。消費者は、規格化された手法で生産された標準的農産物を消費した。こうした分業は、フォーディズム以降の非物質的蓄積体制で疑問視されることになる。まず、消費者の嗜好に関するマーケティングデータや使用者からの情報の還流に基づいたボトムアップ型のイノベーションが見られる。こうした「品質の経済」レジームにおいては、作物品種市場についても、有機農業品種や地理的表示産品向けの品種、食品加工向けの品種のように多様な差別化が行われるようになっているのである。本稿はフランスの国立農業研究所INRAにおける品種イノベーション・レジームについて、1946年の発足時から現在に至るまでの変容を概観しつつ、とりわけバイテクやゲノムといった新しいテクノサイエンスの登場を契機にした近年の展開を明らかにする。他方で、農民参加型選抜のようなオルタナティブな品種イノベーション・レジームが、農場での生物多様性の保全管理において重要な役割を演じる可能性の条件について解明する。