ピキア酵母を宿主とするヒト組換えタンパク質の分泌発現 : 小型培養槽を使用したミッドカイン,プレイオトロフィン,および胆汁酸活性化リパーゼの小規模生産
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概要
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メタノール資化性酵母,ピキア酵母(Pichia pastoris)の異種タンパク質発現系は,現在ではいろいろなタンパク質の発現に広く使用されている.目的タンパク質を分泌することができる組換えピキア酵母細胞の高密度培養により,大量の目的タンパク質の,培地中への効率的な発現を達成できる可能性がある.筆者らは,このシステムを用いて,組換えピキア酵母の高密度培養により,3種のヒトタンパク質,サイトカイン(または成長因子)であるミッドカインとプレイオトロフィン,および母乳胆汁酸活性化リパーゼの発現を試みた.ミッドカインの発現では,それ自身の分泌シグナルを使用したとき,分泌したミッドカインの約半分は酵母に特有なマンノシル化を受けていた.そこで次に,α-接合因子の分泌シグナルを使用した.このとき,培地中に分泌したミッドカインはマンノシル化を受けておらず,発現量は約640mg/lであった.しかし,発現物の約70%は,アミノ末端からいくつかのアミノ酸が欠失していた.この結果から次に,プロテアーゼA欠損株を宿主として使用し,発現を,20℃,pH 3の条件で行った.1週間のメタノールによる誘導終了後,修飾されていない真正ミッドカイン約360mg/lが得られた.プレイオトロフィンの発現は,α-接合因子の分泌シグナル,および宿主としてGS115を使用して組換え体を作製し,ミッドカインの最終培養条件で発現培養を行った.ただし,発現は,pH 5で行った.メタノールによる発現誘導4日間で,約260mg/lの修飾されていない真正プレイオトロフィンが得られた.拡張吸着流動床ストリームラインの使用によって,培養液中のプレイオトロフィンを96%の収率で回収した.胆汁酸活性化リパーゼの発現では,パン酵母のインベルターゼ分泌シグナルを使用した.小型培養槽を用いた発現培養においては,胆汁酸活性化リパーゼの発現が,低い細胞密度でメタノールによって誘導されたとき,発現産物はほとんど培地中に蓄積しなかった.そこで,メタノールによる誘導の時期や酵母細胞増殖期の培養条件を種々検討し,これらを最適化した.最終的には約1000mg/lの胆汁酸活性化リパーゼを,培地中に蓄積させられるようになった.ピキア酵母異種タンパク質発現系は,既に特定のタンパク質医薬品の生産のための強力な手段となっている.上記のように,3種のヒトタンパク質について,多くの試行錯誤の結果,適切な組換え体作製,および適切な条件下で,それらの高密度発現培養を行い,結果として大量のヒト組換えタンパク質が得られた.組換えタンパク質を工業的に生産するためには,適切な組換え体の作製,および発現培養条件の最適化が必須であり,しかもこれらは時間のかかる研究である.ここで記述されたこれらの過程は,他のタンパク質の発現培養のためにも役に立つだろう.
- 2011-10-25
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