量子Blume-Emery-Griffths模型の解析(修士論文(2010年度))
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概要
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本論文では,量子Blume-Emery-Griffiths(BEG)スピングラス模型の相転移について議論する。その目的は一次転移に対する,量子揺らぎとランダムネスの影響を明らかにすることにある。ここでは上記の課題を解明するために,平均場理論および実空間繰り込み群の方法を用いた解析を行う。BEG模型はS=1のIsing模型とも呼ばれ,平均場理論や実空間繰り込み群による解析から一次転移と二次転移の二種類の相転移が起きる模型として知られている。一次転移点では,複数の状態の共存状態が実現している。また,それらの状態間にはポテンシャル障壁が存在する。系が有限温度にある場合は,ポテンシャル障壁を熱揺らぎによって飛び越えることで一次転移が起きるが,低温領域ではこのような機構での相転移は起きない。その一方で,低温では量子揺らぎが有意となり,ポテンシャル障壁で隔てられた状態間をトンネル効果によって遷移することが可能となる。このような背景から,一次転移がある系に量子揺らぎを加えたときに,その一次転移がより強固なものになるか破壊されるかは非常に興味深い問題と言える。よって,一次転移が存在する模型の代表として,量子BEGスピングラス模型を扱うのである。このような系の定性的な性質を知るためには,無限次元の系を表す平均場理論が有効である。よって,まず平均場理論を用いた解析を行う。量子スピン系の解析の困難性の一つは,スピン演算子の非可換性にある。そこで,経路積分の方法を用いることで,d次元量子系を(d+1)次元古典系へと変換して解析を行う。+1次元の効果は量子揺らぎに由来するもので,秩序変数の虚時間依存性という形で現れる。その上で,まず秩序変数の虚時間依存性を無視するという静的近似を用いた解析を行う。次に,量子揺らぎの効果を適切に考慮するために,秩序変数の虚時間依存性を部分的に取り込んだ解析を行う。それらの結果の比較から,静的近似が相図上の特定の領域ではよい近似となっていることが明らかとなった。一般に,静的近似は低温では有効ではない。しかし,本論文の結果はそれが有効な例として非自明なものと言うことが出来る。また,量子揺らぎの加え方によって,一次転移に対する影響が異なることが明らかとなった。次に,有限次元系の性質を調べるために,±Jボンドランダムネスを加えた3次元横磁場BEGスピングラス模型を,実空間繰り込み群の方法を用いて解析する。量子系における繰り込み群を構成するために,本論文では切断近似を導入する。切断近似は半古典的な近似ということが出来,有限次元系の量子揺らぎを解析するための最も初等的な近似と言うことが出来る。本論文では,上記の手法を用いることで得られる相図を提示する。また,スケーリング指数の評価を行うことで,ランダム系に対しても転移の次数を特定する。これらの解析から,純粋系においては横磁場の下でも一次転移が存在することが明らかとなった。しかし,その一次転移はランダムネスの増加に伴い急激に破壊され,二次転移へと移行することが分かった。これより,有限次元において一次転移は横磁場に対しては安定であるが,ランダムネスに対しては不安定であると結論付けられる。
- 2011-10-05