環境ストック概念を用いた公害地域再生の理論的検討 : 持続可能な地域発展に向けて
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概要
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本稿は,公害地域再生と持続可能な地域発展の政策と取組みの指針を導く理論的枠組みの基礎的概念として,環境ストックという概念の必要性と有用性を示すことを目的とする。公害地域再生は被害を生み出した生活空間の再構築を目標とし,それを実現する過程には人々の生活の質に影響を与えるさまざまなストックの再生と,環境被害を生み出した諸ストック間の相互連関構造の変革を必要とする。本稿ではそうした諸ストックを,生活環境を構成する「環境ストック」として,自然環境ストック,人工構造物ストック,文化的ストック,人的能力ストック,社会関係ストックの5つに分類する。環境ストックは,公害によって破壊・劣化させられる対象としての素材的側面と,公害を放置・拡大または防止する主体的側面を持ち,そのうち後者は文化的ストック,人的能力ストック,社会関係ストックの連係によって生じるものと考えられる。素材的側面と主体的側面の相互作用により環境ストックのあり方は変容し,環境制御システムの形成による制度変革がその媒介となる。したがって,公害地域再生と持続可能な地域発展には,環境ストックがその素材面において地域の生活の質を高めるように再生・創造されるとともに,公害を生み出した主体的条件と制度的条件を変容させていくことが求められる。本稿では,理論的枠組みの検討に際して,大阪市西淀川地域における道路公害と地域再生の事例を参照した。
- 2008-11-15