インドネシアにおける慣習法的土地の維持と宗教性 : ロンボク島バヤン村を事例として
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿の目的は,ロンボク島(Lombok)バヤン村(Bayan)を1つの事例とし,慣習法的共同体社会が今なお活きた法として遵守する慣習法が,慣習林に代表される地域独自の自然環境を如何に維持してきたのか,またそのために使用者は何を重視してきたのかを分析し,慣習法的土地の維持と宗教性との関係について明らかにすることである。バヤン村は7つの慣習林を保有しており,それらは彼ら自身の手によって維持・管理されてきた。この慣習林を使用・管理するうえで規範となっているのが,「森林に関するAwiq-Awiq(慣習法)」である。Awiq-Awiqには,禁止事項や義務的行為についてだけでなく,それらを違反した際に適用される罰則規定も設けられている。それらは,時代とともに移り変わる問題に柔軟に対処すべく,その時々の構成員によって合意・了承され,追加あるいは改変されてきた。その過程において神性に関する長老が強く関与していることから,Awiq-Awiqが宗教性を帯びていることがわかる。そのようなAwiq-Awiqによって維持されるバヤン村の慣習林を,井上の提唱する「タイトなローカル・コモンズ」と位置づけた場合,「生態学的機能」および「社会文化的機能」という2つの機能に加え,それを可能にしている重要な要素の1つとして「宗教的機能」があることを本稿にて示唆した。宗教的機能の付加は,単に譲渡不可能性や外部者排除性を生むだけでなく,内部者,すなわち使用者のモラルを向上させるものでもあるからである。
- 環境社会学会の論文
- 2008-11-15