野生チンパンジーとの共存を支える在来知に基づいた保全モデル : ギニア・ボッソウ村における住民運動の事例から
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概要
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アフリカにおける自然保護運動は,植民地時代に行われた強権的な保護区の設置に起源を持つ。各国の独立後も,国際的な自然保護への要請や,先進国からの観光需要を主たる駆動力として運営が行われ,アフリカの人々にとっては自発的な動機に乏しい,外在的な活動であり続けた。今日の参加型保全活動の文脈においても,アフリカの人びとの主体性や保全理念の欠如を主張する,権限委譲への懐疑論がかまびすしい。本稿では,人々と野生チンパンジーとの平和的な共存の地として描かれてきた,ギニア共和国ボッソウ村を舞台に,2002年,同村における政府系研究機関の設立に伴い勃発した,村人によるチンパンジー生息地の森林伐採行動の詳細を記述した。伐採運動は,表向きには生活苦による焼畑耕作地確保の必要性という理由で行われたが,実際には,政府系研究機関によって奪われようとしていた。観光収入の配分などの決定権を維持することが主因であったと考えられる。2002年の一斉蜂起の後にも,数世帯による伐採・耕作が継続した。その背景には,学術研究の隆盛により変容していた村の植生景観を,変容前の姿に取り戻す意図が働いていたと考えられる。このような運動の背景にある景観認識は,外部者が持ち込む保全モデルとは異なる,在来知に基づいた保全モデルによって裏付けられていた。本事例があぶり出したボッソウ村における在来保全モデルは,村における人獣共通感染症やチンパンジーの襲撃による人身被害への対策という点で合理性があり,一般性のある保全生態学的知識に基づいた外来の保全モデルとの間で,単純に甲乙をつけることはできない。今後の保全対策は,両モデルの間での健全な対話に基づいて決定されていくべきであろう。
- 2006-10-31
著者
関連論文
- ウィリアム・C・マックグルー著/西田利貞監訳/足立薫・鈴木滋訳『文化の起源をさぐる-チンパンジーの物質文化』中山書店, 1996年407頁
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