環境社会学における正義論の基本問題 : 環境正義の四類型(<特集>環境をめぐる正当性/正統性の論理-時間・歴史・記憶-)
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概要
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環境社会学には環境のいかなるあり方をもって正義に適っていると判断すべきかに関するいくつかの背後仮説が潜在している。しかし,これまで,それらが明示的に捉えられ検討されることはほとんどなかった。本稿は,既存の正義論の系譜を参照しながら,従来の環境社会学に暗黙裡に埋め込まれていた環境正義論を四つの類型に分けて析出し,それぞれの特徴と課題を明らかにしようとするものである。まず,あらゆる正義と同様,環境正義も社会の中で予め合意されている規範の根拠ではなく,正当化をめぐる対立や紛糾の契機となる争点を通してしか捉えられない規範の根拠であるという前提に立って,いかなる争点からどのような環境正義が社会の中で構築されるかを検討する。その結果,(1)正当化の社会的基盤の多様性・複数性および人間社会から生態系への正当化基盤の外延性の可否に関わる争点を契機として構築される環境正義,(2)環境による便益と損害の分配における数量的差異という争点を契機として構築される環境正義,(3)環境による便益と損害の分配における社会的公正という争点を契機として構築される環境正義,(4)法規範の実効性と不正義の是正可能性という争点を契機として構築される環境正義という四つの類型を析出する。次に,既存の正義論を参照しながら,環境社会学においてこれらの環境正義を捉える視点を示す。その結果,第1の環境正義を捉えるには,環境正義と社会の正義との予定調和を前提として多元的なコミュニティに内在する個別主義的な正義にのみ視野を限定するべきではなく,多元的な諸コミュニティに横断的に適用可能な普遍主義的な公共性の正義論を志向する視点に立つ必要があること,第2の環境正義を捉えるには,功利主義的正義論の視点を批判的かつ慎重に内在化すること,第3の環境正義を捉えるには,分配正義の視点を組み込むこと,第4の環境正義を捉えるには,「受動的不正義」の是正としての環境正義という視点の導入が不可欠であることを説く。最後に,「中範囲の規範理論」としての環境正義の社会学理論の課題を展望する。
- 2005-10-25
著者
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